楪一志『レゾンデートルの祈り』安楽死が合法化された世界【あらすじ・名言】

小説

奇妙な話を紹介する奇譚展へようこそ。

今回は、Web小説サイト「カクヨム」に掲載された作品が基になっている楪一志さんの作品『レゾンデートルの祈り』を紹介します。

あらすじ

舞台は2035年の日本。時代の変化に適応して、安楽死制度が合法化されている。しかし、誰でも安楽死ができるわけではない。様々な条件の上、人命幇助者<アシスター>と最低十回の面接をした後に、安楽死することができる。

この人命幇助者<アシスター>を仕事としている遠野眞白が、五人の安楽死希望者と出逢い、彼らの安楽死を止めるべく奔走する。

安楽死の条件

本作において、安楽死の条件は二つあります。一つ目は「RES」。十分条件と呼ばれるもので、三つの要件の内、どれか一つでも満たすことができれば安楽死を選択できます。

RES

 Ⅰ.年齢が八十歳以上であること。

 Ⅱ.医師に難病であると宣告されていること、もしくは治療法が不明の病であること。

 Ⅲ.病気や事故を要因とし、意思疎通が困難であり、親族から安楽死の要望があること。但ただしこの場合、本人の意向が確認不可である為、本人が自治体の幇助課に届け出ている延命希望カードの内容に基づく。

2つ目が「REN」。必要条件といわれ、五つの条件が全て当てはまった場合のみ、安楽死の選択が可能です。

REN

 Ⅰ.自らの要請であり、十四歳以上であること。

 Ⅱ.要請理由は精神的苦痛、肉体的苦痛のいずれか一方、または両方であること。

 Ⅲ.要請日から起算し、一年後の応答日まで検討期間として生活すること。

 Ⅳ.検討期間では『人命幇助者アシスター』との面談を十回以上行うこと。

 Ⅴ.検討期間を終えた後の最終意向確認で意向に変化が無いこと。

人命幇助者<アシスター>とは

上記のRENに出てくる人命幇助者<アシスター>は、安楽死したい人と十回の面談を行います。

安楽死の申請は一生涯で一度しか行うことが出来ません。人命幇助者<アシスター>は、十回の面談を通して生きたいと思える考え方に変えて、なおかつ今後一生、死にたいと思わせないまでに申請者を変えるため奮闘します。それが人命幇助者<アシスター>の仕事です。

この物語は、人命幇助者<アシスター>である遠野眞白が、五人の安楽死希望者と向き合う話です。全く別の境遇の、繋がりのない五つの安楽死希望者のストーリーで、安楽死を希望した理由も結末も全く違います。

それぞれ、苦しい、切ない気持ちになりながらも、様々な教訓が得られるお話です。

ラストリゾートでの面接

ラストリゾートとは、「最後の在り処」という意味を基に名付けられた、安楽死希望者が面談するために作られた施設です。全国に十箇所ほどあるのですが、本編では主に江ノ島にあるラストリゾートが出てきます。

このラストリゾートは、湘南の海を一望できるところに設置されています。最高の景色が見える場所にあるラストリゾートは、本編中の様々なシーンにおいて特別な情景描写として描かれます。

安楽死希望者の切ない感情の言葉とその真相、ラストリゾートからのキラキラした海の景色や夕日の情景。それらの描写が豊かな表現で書かれています。

登場人物

・主人公 遠野眞白

主人公の遠野眞白は、神奈川県藤沢市に住む二十歳の女性です。白い肌に168センチメートルの身長。まつげの長い二重幅、綺麗な形の唇を持ち合わせています。大人しい性格で喧嘩を嫌う方です。

・教官

人命幇助者<アシスター>としての研修生初日、遠野眞白は研修所で一人の教官と出逢います。三十代前半、目鼻立ちがくっきりしていて、ショートヘアーが似合う女性です。

彼女は教官として、そして人命幇助者<アシスター>として、様々なことを伝えてきます。

後半には遠野眞白と二人で面談し、大切なことを教えるシーンもあります。

「安楽死希望者の方々全員が死にたいと思っているーーそれは間違いです。中には生きたいと思っている人もいます。死にたいわけではなくて……死ぬ理由が、生きる理由を少し上回っただけの人もいます」

楪 一志「レゾンデートルの祈り」(2021)

これらの教訓は、読者である私達にも大切な話であったり、考え方が一変するような考え方であったりします。教官の名言の数々に胸が熱くなります。

【考察】合法的な安楽死制度が伝えること

この本の帯に、有名tiktokerである「けんご」さんが『現代社会に欠かせない作品だと思います』と書いています。

様々な問題が蔓延る複雑な現代社会。精神的に病んでしまう人もどんどん増えています。

そんな現代社会では、人生で「死にたい」と思ってしまうことがある人も多いでしょう。

この物語の登場人物もそうです。安楽死を希望したい。人生において死にたくなるような出来事があった方が多くいます。現代社会の縮図を、「死にたい」という感情を安楽死制度に置き換えて表したかのような、そんな人達を、人命幇助者<アシスター>が救っています。

「人生は面白い」なにか辛いことがあっても、またやっていけそうな気持ちにさせてくれたり、人生という長い旅路に対しての価値観を変えてくれる、そんな一冊です。

まとめ

人の「生き死に」に正面から向かい合う作品です。続編に「レゾンデートルの誓い」という作品も出版されています。そちらもあわせて、読んでみてください。

コメント